【旅フィロソフィー】地球を旅する:ワールドトラベラーによる新しい旅哲学

どこかの国へ行くのではなく、6年半をかけて地球そのものを旅するという新しい概念のもとにつづられたニコス・ハジコスティスの旅哲学。その発想は、まるで地球という星にやってきた宇宙人のようである。これは彼が周った6大陸70カ国の民族、文化、自然の驚異と感動の記録である。

旅とはいったい何なのか、なぜ私たちは旅をするのか。旅はガイドブックで見た写真の風景を現地で確認する作業ではなかったはず。知らない土地で何かを食べて、何かを買って元の生活に帰る。そういうことが旅なんだろうか。そんな疑問からはじまる地球への旅立ちである。

もし世界を旅行するためのホテルやグルメのガイドブックを探しているのならこの本は適切ではないかもしれない。掲載された写真は風景や自然の美しさだけでなく、人々の生活、宗教、お葬式など、ありのままの姿が垣間見える。

時間だけが消えてゆく生活をぬけだし、もしもどこかの星へ移住するとしたならどのように生きなおすだろうか。これまでの知識や経験がなんの役にもたたず、言葉も通じない、社会の仕組みや習慣も分からない場所で何を得ることができるだろうか。思いがけない出会いや発見や感動があるのだろうか。パラレルワールドへ迷い込むような体験がここにある。

いつしか作者の体験したことが自分の中で疑似体験となっていることに気がつき、そしてこの本の中にある世界に行ってみたい見てみたいという欲求が生まれた。

旅は、自分自身の中にある既成概念や偏見を見つめなおすための迷路のようなものではないだろうか。旅程は必ずしもそのとおりには進まず、不安で眠れない夜があり、だまされたり何かを盗まれたりもする。道に迷い思いもよらない天候に前に進めず、事故に遭遇して身動きが取れないこともある。まるで人それぞれの人生のようである。

見知らぬ土地で体験する習慣や思考の違いは、自分の中にある偏見を気づかせてくれる。そして自分自身を解放するために、あるいは自分が何に縛られているかを知るためのきっかけとなるだろう。

外国を旅するのではなく地球を旅することで、国境や人種や宗教で括られるべきではないと気がつくはずだ。たとえ本の中であっても、想像力を膨らませて地球人が生きている世界を体験したい。

地球というひとつの世界を旅することで、これまでにない人生を生きる哲学がここにある。この長い旅を終えるとき、無為に生きてきた生活をふり返る機会となった。私たちは確かに地球に生きている。